プラド・カザルス音楽祭🎶
7月25日、フランスはプラドという片田舎で、パブロ・カザルス・フェスティヴァル(Le festival Pablo Casals de Prades)が始まりました。
みなさんは、パブロ・カザルスという名前をご存知でしょうか? スペインの偉大なチェリストです。 彼は1900年初頭、当時名もなかった(けれども秀逸な)J.S.バッハの無伴奏チェロ組曲という作品を発掘、初めて演奏会で演奏して、広く世に知らしめました。
今私は、「スペインのチェリスト」と、書きましたが、厳密にいうと、スペインの中でも特別なくくりになっている地区、カタルーニャという地方の出身でした。 カタルーニャについて語ろうとすると、それこそ、その深く混沌とした歴史のほんのさわりの部分だけでも、一晩では語りつくせないほど。 ですので、そこは各自お調べいただくとして、とにかく、このカザルスさんという人は、カタルーニャから、1939年スペイン内戦の時代にフランスに亡命、フレンチ・カタランの田舎町プラドでしばらく演奏活動もせずに、引きこもって過ごしていました。 ですが、やがて回りの友人たちの勧めで、そのプラドの地で音楽祭を開くことを決定し、彼も再び人前でチェロを弾くこととなりました。
その後今日まで、この音楽祭はずっと続いているわけですが、2016年の今年は、7月25日が初日、最終日が8月13日のようですね。 期間中は毎日、町のはずれの教会や、町から少し上っていった山の中腹にある修道院や、広場の野外コンサート会場など、あちらこちらの会場で、クラシック音楽を中心に、時にはジャズなどのコンサート、それに若い演奏家の人たちのワークショップなどが行われます。
実は私も、2011年にこの音楽祭を訪れました。 ピレネー山脈のふもとに位置する、本当に田舎の小さな町なので、ローカル線にトコトコ揺られ、たどり着いた場所は「別天地」! 素晴らしく美しい山の風景と、亡命を成し遂げたカザルスさんの胸中、色々な思いが相俟って、そこの地に立っているだけで泣けてくるような感動、だったことを思い出します . . .
そんな音楽祭で一番の楽しみだったのは、音楽祭最終日、修道院での室内楽コンサート。 そのコンサートの最後に演奏されるのは、カタルーニャ民謡『鳥の歌』« Le Chant des Oiseaux »- この曲は、この音楽祭の最後に毎年必ず演奏される、パブロ・カザルスへのオマージュ(敬意)なのです。 石造りの修道院内部に鳴り響く、チェロの深く悲哀に満ちた美しいメロディ。 息を殺して一音たりとも聞き逃さないように、耳をそばだてる。 他のお客様も、その場にいる全員が同じ思い、同じ感動、きっとそうだったに違いない、と思うのです。
近頃よく考えているのですが、何かと不穏な世の中で、誰もがこういう音楽を聴いて、心穏やかになれるんだったら、どんなにいいかな、と。 『鳥の歌』に込められたカザルスさんの「平和を願う」心、チェロを伝って来る彼の思いがそのまま、誰の心にも伝染するようにできていたらいいのに . . . などと、音楽祭の感動を思い起こしながら、そんなことを考えております。